選択の日 初日(1日目)

選択の日1日目 小さな更新の日

ソフトバンクと約束した時間に、娘が起きてきた。

「出かけるけど、遅くなるかもしれない。一緒に行く?」

「いいよ。」

車に乗り込み、高速道路に入る。
こんな日はビートルズが似合う。

小高い山を抜け、長いトンネルを通ると、窓の向こうに太平洋が開けた。
私は心の中でその名を呼ぶ。遠い友達を確かめるように。

娘が言葉遊びを始める。

「政治は英語で?」

「ガバメント。」

「自信は?」

「コンフィデンス。」

「太平洋は?」

私は海を見ながら答える。

「Pacific Ocean。」

店に着くころ、空は荒れていた。
風に押された雪が横に流れている。それでも南紀の地面に雪は残らない。暖かい土地だと思う。その穏やかさが、少し羨ましかった。

手続きは驚くほど滑らかに進んだ。
長く使い続けた古い携帯を手放し、新しい機械を受け取る。掌の重みが変わるだけで、世界がわずかに更新された気がした。

外に出ると夕方だった。

娘が言う。

「明日、まつエクなんだ。」

場所が不安なら見に行こうかと言うと、彼女は笑った。
一年半ぶりだという。その時間の長さを思う。

私たちは店の場所を確かめ、静かな満足とともに家へ戻った。

マンションのフロントには、新しいパソコンが届いていた。
箱を抱えてエレベーターに乗る。扉が開くと、廊下がいつもより明るく見えた。

テレビでは選挙の結果が流れている。
画面の向こうで国は動き、私の足元では小さな生活が組み替えられていく。

ホームルーターのランプが整然と光り、部屋に安定した気配が満ちた。

パソコンの設定を始めると、娘は台所に立った。
豆腐のお好み焼きの匂いが漂う。

皿を受け取り、作業の合間に口へ運ぶ。
その温かさが胸の奥に静かに広がった。

娘は出来上がったお好み焼きを写真に撮り、LINEで私の母に送った。
ほどなく返信が来る。

「感心したわ。私にも作って。」

画面の短い言葉に、三人の時間がやわらかく重なった。

待ち時間に温泉へ行く。
久しぶりの湯が肌をほどき、思考を溶かす。

戻ってカウチに横になり、膝の上のパソコンを眺める。
起動していく光は、小さな鼓動のようだった。

以前の私なら、この光に追い立てられて夜を越えていただろう。

けれど今は、穏やかな疲労が体を包んでいる。

新しい機械のかすかな音を聞きながら、
私は静かに目を閉じた。

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