― ロケットと微調整
三度目の挑戦の日。
ロケットはまた飛ばなかった。
10月のある日、
私の住むマンションに地響きのような轟音が響いた。
空から落ちてくるような低い音。
生まれて初めて聞く音だった。
それは
カルロスロケットが打ち上がった瞬間の音だった。
ロケット発射を
体で感じた初めての経験だった。
そして今日、
カルロスロケットは三度目の挑戦を迎える予定だった。
町民が集まる海岸。
目の前には広い太平洋。
私と娘も
その丘へ向かった。
普段は人影のない場所に
今日は県外ナンバーの車が並んでいる。
和歌山ナンバーが
いちばん多かった。
人の間を縫うように進み
ようやく見晴らしの良い場所にたどり着く。
人々は
静かに待っていた。
本を読む人。
スマートフォンを見る人。
誰もが同じ方向を見ながら
発射の瞬間を待っている。
風は穏やかで
空は快晴。
今日は成功する――
そう思えた。
しかし突然
発射見送り の知らせが入る。
地元の人たちは笑っていた。
「いい散歩になった」
「日向ぼっこできたな」
一方
遠方から来た人たちからは
「せっかく来たのに」
という声も聞こえた。
同じ出来事でも
受け取り方は違う。
私たちは買い出しを済ませ
パンを持ってつねちゃんの家へ向かった。
皆で分け合って昼食を食べる。
娘が思い立ったように
夕食用だったキムチラーメンを作ってくれた。
辛い物が苦手なご夫婦だったが
ご主人は
「美味しい」
と何度も言いながら完食した。
その時
テレビでは
アメリカによるイラン攻撃
のニュースが流れていた。
日本では
ロケット発射が見送り。
アメリカでは
軍事作戦が成功。
対照的な現実だった。
つねちゃんが
静かに言った。
「戦争は嫌だね。
日本は平和でいいね」
戦争を経験した世代の言葉には
重みがあった。
その後
カルロスの会見が始まった。
発射見送りの理由は
「風がなさすぎたため」
前回は強風で中止。
今回は無風で中止。
技術者は説明した。
ロケットは
冬の気象条件を想定して調整されており
この日は
春のような気候だったという。
必要だったのは
大きな修正ではなく
微調整だった。
その瞬間
私ははっとした。
つねちゃんの家で
パソコンを開く。
クラウドワークスや
ココナラのプロフィール文を
AIで書き直した。
少し言葉を変える。
順番を入れ替える。
伝わり方を整える。
ロケットも
仕事探しも
同じだと思った。
成功と失敗の差は
大きな努力ではなく
ほんのわずかな調整
なのかもしれない。
帰宅後
YouTubeでは
戦争について
正反対の情報が流れていた。
危機を語る人。
すぐ終結すると語る人。
情報は
いつも揺れている。
そして
インディードを開くと
私にも
採用見送り通知が届いていた。
不採用ではなく
見送り。
カルロスロケットも
見送りだった。
終わりではない。
次に飛ばすことが
前提だからだ。
何気なく画面を見ていると
数社の企業から
直接オファーが届いていることに気づいた。
初めてのことだった。
きちんと返信しなければいけない。
そう思いながらも
今日はなぜか
少し疲れていた。
ロケットも
飛ばなかった日だ。
今日
飛ばなくてもいい。
ロケットも
私も
まだ
打ち上げ準備中だから。