選択の日8日目娘が10年ぶりに告白した日。

朝7時。昨夜もよく眠れた。
ストーブに火を点けると、背後から圧力がかかった。

「ママ、朝ご飯作るよ」

娘だった。

自分の分はオートミールのパンケーキ。
私の分はおかかおにぎり。

「ごめんね。こんなになっちゃって。私、おにぎり作るの初めてなの」

娘は、かわいいキティちゃんのおにぎりの型を使って作ってくれた。

何が嬉しいのか分からないが、
兄に写真を送っていた。

そうか。
彼女にとっては、初めておにぎりを作った日だったのだ。

兄からはすぐに返信が来た。

「いいじゃん」

娘の作ったおにぎりには、少しごま油が入っていた。
油が入っているから形が崩れても当然だ。

でも、そのふわっとした香りがして、とても美味しいおにぎりだった。
どこか娘らしい、優しい味がした。

そしてそのおにぎりは、
私にこう言っているような気がした。

初心者でも大丈夫だよ。

パソコン初心者でも、
在宅ワーク初心者でも、
ママの仕事はきっと美味しいよ。

私の選択。
兄の返信は「いいじゃん」。

子どもたちが背中を押してくれているようだった。

その後、好きなYouTubeを見ながら、ぐだぐだと過ごしていた。

掃除機をかけなきゃ。
パソコンをセットアップしなきゃ。

そう思いながらも、動かなかった。

「我慢を選ばない」

そう決めてから、
私の中で無理をしない時間が増えていた。

無理しないって、本当に楽だ。

ぐだぐだしている自分を責めることを、
私はもう選ばない。

穏やかと言っていいのだろうか。
それとも怠惰だろうか。

そんな小さな声も心の中にあった。

昼食をとり、
また昼寝をするのかなと思っていた。

そのとき、ふと思った。

「パソコンの電源だけ入れてみようかな」

軽いノリでパソコンを開いた。

初期設定。

パソコン音痴の私には、遠い存在のように感じていた。

私にできるはずがない。

Windowsが発売された頃、私はいち早くパソコンを買った。
でも初期設定が大変すぎて、結局パソコン屋さんに持って行くことになった。

それ以来、友人に頼んで設定をしてもらっていた。

だから今日みたいな日は、
昔の私には幻のように思えただろう。

それなのに――

Windows11をダウンロードできた。
ウイルスチェックもできた。
Wi-Fiにも接続できた。

Googleもダウンロードできた。
ChatGPTもアプリを入れた。
Geminiも入れた。
iCloudとも共有できた。

Gmailのメールも整理できた。
Indeedもお気に入りに入れた。

iPhoneとほとんど同じ環境が、
パソコンの中に出来上がっていく。

必要なアプリを一つずつそろえていく。

画面に見慣れたアイコンが並ぶたび、

ここで働けるかもしれない

そんな実感が、少しずつ湧いてきた。

パソコンの中に、小さな仕事場ができていく。

それは同時に、

人生をもう一度立て直せるかもしれない

という静かな希望でもあった。

あと必要なのはMicrosoft Officeだ。

ココナラもお気に入りに入れた。
会員登録もできた。

ふと気がつくと、夜9時になっていた。

夕食も食べずに、ずっと作業していたのだ。

午後1時から始めたから、
ちょうど8時間。

「そっか。オフィスワークって、こういう感じなんですね」

心の中で、まるで研修中の私のように丁寧語でつぶやいた。

看護師は肉体労働。
疲れ方が全然違う。

この程度なら、
私、在宅ワークいけそう。

私の作業が終わったのを見計らったように、娘が声をかけた。

「晩ご飯作るね」

続いている。

小麦粉の代わりに豆腐で作ったお好み焼き。
つねちゃんからいただいたお刺身。

ふわふわのお好み焼きと、丁寧にさばいた刺身。

本当に美味しかった。

お腹いっぱいになった瞬間、
どっと睡魔が襲ってきた。

私はそのまま、あっという間に眠りに吸い込まれていった。

今日一日、できたことが頭の中で静かに並んでいた。

初心者でも、大丈夫。

そんな小さな確信を抱えたまま、
私は安心して眠りについた。

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