選択の日4日目 働かなくても幸せな日

ああ、寝不足だ。
朝6時に目が覚めてしまった。

もう少し寝たかったな、と心の中でつぶやきながら上着を羽織る。
ストーブに火をつけ、エアコンを入れて寒さをしのぐ。

抹茶をすすり、冷蔵庫の残り物を食べて、朝が始まった。

部屋にはお醤油の香りが残っている。
私が起きる前に、娘は自分で朝食を作って食べたのだろう。

ふと愛犬ミーのトイレを見ると、珍しくペットシーツがくしゃくしゃに散らばっていた。
最近、山へ散歩に連れて行ってあげていなかったな、と思う。

用事や出来事が重なり、知らないうちにミーに我慢させていたのかもしれない。

一つひとつ丁寧に拾い、汚れたものを袋に集めてきれいにする。
ばらばらになったペットシーツは、簡単に元に戻る。

もしかしたら、ばらばらになった思考や心も、同じように整え直せるのかもしれない。

好きなYouTubeを見ながら、のんびり過ごした。
実は、のんびりしている場合ではない。

私は無職で、在宅ワークを選んだ。
新しいパソコンも買った。

セットアップしなければいけないのに、なかなか手がつかない。

「在宅ワーク頑張るぞ」という気持ちより、
「できるかなぁ」という不安のほうが強いのだろう。

本心は行動に現れる。
それを私は知っている。

少しだけIndeedを開くと、スカウトがいくつか届いていた。
でも、まだネット環境も整っていないし、セットアップも終わっていない。

見ても無駄だと思い、閉じた。

そして、だらだらとした時間に身を任せる。

昼食を食べると眠くなり、布団に入って本格的に寝た。
みんなが仕事をしている時間に、私は布団の中でぬくぬくしている。

その奇妙な優越感。

怠惰は一見、魅力的だ。
幻の自由さえ感じる。

そのときLINEが届いた。

「新しいからだ。中トロ入ったよ」
「お昼寝して起きてから行っていい?」
「寝るのかい」
「寝る」
「いいよ」

結局、夕方まで寝てしまい、ちょうど夕食時に目が覚めた。

新しい母の手料理をまたいただく。
変わらない昭和の家庭料理。

彼女の名前は「常」。
名前の通り、揺るがない人生を送っている。

長い看護師生活で多くの高齢者を見てきたが、
長生きして元気な人ほど、名前の意味に沿った人生を歩んでいることが多い。

名前は運命なのか。
それとも、生き方の指針なのか。

親の願いが、無意識に受け継がれているのかもしれない。

娘の名前は「亜青」。

北京市内の病院で生まれた。
正午の北京の空は、驚くほど青く澄んでいた。

「亜細亜の青空」

その言葉を短くして「亜青」と名付けた。

彼女は、青空のように綺麗好きに育った。

平成生まれの娘には障害があり、
一般的な意味では働いていない。

それでも彼女は、日々の生活の中で美しさに感動し、
美しいものを作り、幸せを感じて生きている。

その姿を見ていると、
働くことと幸せは必ずしも同じではないのだと、静かに教えられる。

幸せの形は一つではない。

そのことを、私はこれまで出会った人たちから何度も教えられてきた。

田中町子さんは専業主婦だった。
子どもはいなかったが、地域のボランティア活動に長年尽力し、
「町」に根ざして生きてきた人だった。

ご主人が亡くなった後、彼女の活動は海外へ広がった。
当時すでに70代だったが、80歳まで精力的に活動を続けたという。

「元気いっぱいだった」

そう彼女自身が振り返っていた。

名前の通り、町に尽くす人生だったのだろう。

転機はある夏に訪れた。
思い立ってエアコンの掃除をした際、大量の埃を吸い込んでしまったらしい。

その後、彼女は肺炎を発症した。

回復後も呼吸状態は完全には戻らず、
後遺症として気管支拡張症を残した。

現在は常時酸素吸入が必要な生活を送っている。

喀痰は非常に多く、
ティッシュで拭うと一日でゴミ袋が三つ分になることもある。

ベッドからトイレまでの短い移動でさえ、強い息切れを伴う。

つねちゃんは、もう三年も寝たきりのご主人を介護している。
それでもへっちゃらだ。

昨夜、ご主人が言った。

「起きてくれなんだ。おむつの中におしっこした」

私も娘もつねちゃんも、スルースキルが高い。
同じことを何度も言っていたが、すべて受け流した。

今どき、在宅介護で夜中に尿器を当ててくれる人がどれだけいるだろう。

つねちゃんは毎晩起きて対応している。
本当にすごい人だ。

勝浦では時々、黒マグロが上がる。
今日はその日だった。

やはり黒マグロはおいしい。

作り置きのお惣菜と豚汁まで持たされて帰宅する。
いつも我が家の分も用意してくれている。

帰り際、私は言った。

「つねちゃん、ソフトバンクに乗り換えようね。今月中がいいよ」

「私はいつでもいいよ」

そう言うけれど、つねちゃんは忙しい。
介護士や看護師の訪問、通院、友達との買い物。

一週間の予定はびっしり詰まっている人だ。

お腹も心も満たされ、
珍しく一人で温泉に行った。

ふう、最高だ。

静かに幸せを感じていた。

昭和の
「働かざる者食うべからず」

そんな価値観よりも、
私は自然な幸せを選んだ一日だった。

今日は記念日だ。

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