選択の日26日目 成長には成功も失敗もない

選択の日28日目
カイロスは失敗じゃない

会社からのスカウトが増えたな。

週に4〜5件だったスカウトが、
いつの間にか一日に4〜5件届くようになっていた。

けれど、在宅ワークのスカウトはまだ少ない。

今日もカイロスを見に行こうか。
それとも、やめておこうか。

そんなことを考えながら、スカウトメールを開いていた。

娘は体調が悪く、昨日からカイロスを見に行っていない。
今日も行けないだろう。

昨夜、娘が言った。

「これだけ行っておいて、飛んだ日に行かないなんて馬鹿だよ」

その言葉が頭に残っていた。

ふと、行ってみようかなと思った。

私はカイロスに、
期待もしていなければ、失望もしていない。

ただ見てみたいと思っただけだ。


展望台に行ってみると、
初日の100分の1ほどしか人はいなかった。

そのおかげで、
カイロスがよく見える場所を選ぶことができた。

海の上に浮かぶカイロスロケット。

炎が噴射されている。
まぶしい。

「成功や!!!」

誰かが叫んだ。

そして観衆の声が重なる。

「いってらっしゃーーい!」

みんなが手を振る。
拍手が広がる。

カイロスは太陽に向かって、
まっすぐ飛んでいく。

どんどん小さくなるカイロス。

それでも私は、
目を離すことができなかった。

カイロスが成功すれば、
私も在宅ワークで成功できるような気がした。


山間の道と海岸沿いの渋滞に巻き込まれながら帰る。

それでも、不思議な自信が湧いていた。

技術者は記者会見で言っていた。

「本当は昨日でもカイロスは飛ばせた。
しかし、明日のほうがベストだと判断した」

私はその言葉を思い出していた。

今日、空はよく晴れていた。
風も穏やかだった。

カイロスは太陽に向かって、
まっすぐ飛んでいった。

私は思った。

今日は、本当にベストの日だったのだと。


家に帰ってYouTubeを開いた。

コメント欄には
「ネズミ花火w」
と書かれていた。

あの空の下で、
みんなが手を振っていたことを思うと、
少しだけ笑ってしまった。


私はカイロスの記者会見を待っていた。

会見が始まる。

代表取締役が話していた。

「改善している。
失敗とは思っていない。
ご理解いただきたい」

なるほど。

カイロスは任務遂行ができないと判断し、
自爆していたのだ。

太陽に向かって飛んでいたカイロス。

社員たちは、
その自爆をどんな気持ちで見ていたのだろう。

私は思った。

こんな会社で働きたい。


「ママ、もう4キロも痩せたよ。
ママの方法いいよ」

娘が言った。

娘は体重増加とHbA1cの悪化にショックを受け、
一時は寝込んでしまっていた。

インスリン抵抗性の肥満は、
普通のカロリー制限のダイエットでは改善しない。

私は食事を変えた。

二食をスープにする。
一食は好きなものを食べる。

脳腸相関の考えを取り入れた。

そして、もう一つ大切なのは食物繊維。

食物繊維は炭水化物の一つであり、
腸内細菌の栄養でもある。

彼女の体質改善は、
この食事を一生続けること以外に
楽に健康を保つ方法はないと
私は確信していた。


社長の言葉を、もう一度考えてみた。

長い人生。

人は失敗から学ぶ。
そうして成長していく。

年齢に関係なく。
持っているか持っていないかにも関係なく。

失敗を、
最高のデータに置き換える。

なるほど。

人生には、
成功も失敗もないのかもしれない。


私は、たくさんの患者さんを看取ってきた。

けれど、患者様の人生が
成功だったのか、失敗だったのか。

そんなことを考えたことは、
一度もない。

なぜなら——

人生の最後に必要なのは、
成功でも失敗でもないからだ。

ただ、
今この瞬間を安楽に過ごしてほしい。

それだけだった。


ベストだと思うことを選ぶ。

その想いだけが、
私の中に残っている。

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