選択の日27日目 再々挑戦
「あれ、そんなに疲れてない。私ってまだ元気だな。」
そう思いながら、愛犬ミイと散歩に出た。
ミイは何度もボールを取りに走り、口でポンと私に返してくる。
まるで「もう一回投げて」と言っているみたいだ。
朝陽に照らされて白波がきらきらと光る。
その前を、柴犬が全力で走る。
かっこいい。
満足すると、ミイは私の「帰ろうか」という言葉をちゃんと理解する。
車の場所も分かっていて、自分から乗り込む。
今日は楽しみにしていた日だ。
カイロスロケット再々挑戦の日。
そして、二回目の在宅ワーク面接の日。
面接は夕方。
準備は何もしていない。
それでも私は、ミイと一緒に展望台に向かうことを選んだ。
早めに着いたので、スマホで面接のサイトを確認する。
Google Meet。
インディードのメールからちゃんと入れる。
展望台には、前回の半分くらいの人しかいなかった。
観光バスが二台、通り過ぎていく。
ミイと一緒に発射を待っていると、二歳くらいの男の子がミイに近づいてきた。
興味津々。でも少し怖いらしい。
ミイがちょっと動くと、その子は弾むように笑った。
ミイも興味津々で、二人はしばらく見つめ合っていた。
隣のおばさんがミイにおせんべいを差し出した。
でもミイは匂いを嗅いで、ぷいっと顔をそむけた。
私の許可なく食べない犬だ。
「この子食べへん?いらんの?」
ミイは食べ物より、その男の子に夢中だった。
体はミイの方が小さいのに、どこか母親のような目をしている。
そして11時。
カイロス発射の時間が来た。
ほどよく風も吹いている。
今日はきっと飛ぶだろうと思った。
──中止だった。
和歌山県民は、静かに帰り始める。
誰も文句を言わない。
中止理由の記者会見が始まった。
「明日の方がベストだから」
なるほど。
飛ぼうと思えば飛べた。
でもベストを選んだ。
ロケットも、選択しているのだと思った。
そのときスマホが鳴った。
インディードからオファーが来ていた。
高校生の就職支援の仕事。
私は本当は大学に行きたかった。
でも父が亡くなり、誰からも言われなかったけれど、進学をやめた。
受験勉強もしていない。
最終学歴は高卒。
十五歳の私は、それでいいと思っていた。
十代の世界は狭い。
経験も少ない。
でもその狭い世界で、人生の大きな選択をしてしまう。
市単位の町で育った私。
憧れていた東京。
でも行くことは許されなかった。
世間体という壁があった。
だから思う。
一人でも、私のようになってほしくないと。
今日の面接は、私の経験が活かせる仕事だ。
そして、さっき見つけた仕事は、私の愛情が活かせる仕事だった。
しかも時給は、500円高い。
正直、魅力だ。
そして夕方。
面接が始まった。
自己紹介のあと、私はこれまでの経歴を話した。
「いいですね」
面接官がそう言った、その瞬間。
ミイが吠えた。
一瞬、私の体に緊張が走る。
でも面接官は、気にしなくて大丈夫というアイコンタクトを送ってくれた。
私は安心した。
気持ちを切り替えて、こちらからも質問をする。
リモート面接は録画されている。
きっと犬の声も入ってしまっただろう。
面接が終わると、娘がリビングに来た。
「これ落ちても、ママのせいじゃないから」
そのあと私は、続けてライティング採用説明会のZoomに入った。
AIライティング市場の説明だった。
SEO。
カタカナの専門用語。
テキストはクラウドワークスに送られているらしい。
約40分、代表取締役と名乗る男性が話していた。
AIに考えさせる。
AIに頼る。
その結果、大量生産の文章が増えて文字単価が下がったという。
読めば、AIの文章は分かる。
だから今は、体験型の文章に価値があるらしい。
そして言われた。
「興味のある方だけ残ってください」
私は残った。
すると個人指導があるという。
LINE登録で日程を決めるらしい。
怪しい。
Zoomには四人いた。
でもLINE登録をしていないのは、たぶん私だけだった。
クラウドワークスでは、これは禁止のはずだ。
二つのリモート面談が終わったころ、私はどっと疲れていた。
新しいことに順応する力が、少し落ちているのかもしれない。
でも私の体は、疲れるとちゃんと眠くなる。
回復する方法を、体が知っている。
ありがたい体だ。
少し風邪をひきそうだ。
私はソファーに横になり、
そのまま眠ってしまった。