選択の日19日目― 刃物の静けさ

― 鯵の開きと新宿スワン

今朝は朝から、小鯵を捌いていた。

つねちゃんのさばき方を動画に撮り、
それを見ながら真似をする。

子鯵から血液が流れ出す。

子出刃で刺し、切り裂いていく。

私は外科医になったような気分だった。

いらないところを丁寧に取り除く。

小鯵は三枚におろされていく。

かなり難しい作業だ。

幸い手を切ることはなかったが、
二日も鮮度が落ちた子鯵は、身が柔らかくなってしまっていた。

塩をして、酢で締める。

完成した子鯵の写真を
LINEでつねちゃんに送った。

「あはは、慣れだよ」

その返信で、
少し肩の力が抜けた。


待ち時間。

最近入ったU-NEXTで
邦画 「新宿スワン」 を観ていた。

都内でも特殊な街、
新宿歌舞伎町が舞台である。

風俗嬢のスカウトの話だ。

あるスカウトマンは
風俗嬢を幸せにしたいと思っている。

あるスカウトマンは
風俗嬢を利用して新宿の支配者になろうとする。

覚せい剤を売り、
女の子たちをコントロールする。

彼らのコミュニケーションに
「話し合い」という方法は、ほとんどない。

暴力。
血。

そして喧嘩に弱い方の男は
必ず刃物を使う。

素手 vs 刃物。

どちらにしても
流血は起きる。


さすが映画だ。

つい私は、
別の角度で見てしまう。

あの角度であの部位を刺したら
腹部大動脈が切れるはずだ。

あごをあの角度で殴ったら
頚椎損傷を起こしているはずだ。

そんなふうに、
冷静に見ている自分がいた。

痛みに対して
「かわいそう」という感情は
横に置かれる。


ふと、
今朝、小鯵を捌いたときの
出刃包丁の感触がよみがえった。

力なんか、本当にいらない。

刃物は
すっと皮膚や筋肉、
内臓へ吸い込まれていく。

暴力も、
する側も、される側も
慣れていく。

それが一番怖い。


あるスカウトされた女性が
自殺してしまった。

風俗嬢を幸せにしたいと願う
スカウトマンは泣いた。

すると先輩スカウトマンが言う。

「歌舞伎町を歩け」

歩いていくと
すれ違う風俗嬢たちが

笑顔で
感謝の言葉を送っていた。

三十人。
いや四十人はいただろうか。


私も、
「ありがとうございます」と
言われる側にいた。

そして

「ありがとうございます」と
頭を下げる側にもいた。

コントロールされる側にもいた。

だからこそ
コントロールする側には
いたくないと思っていた。


今日の娘は
一日中眠っている。

今日のスパティフィラムも
一日中静かだ。

追い詰めると
追い詰めが出るのだろうか。


年齢を重ねて
良いことは一つある。

焦らなくなることだ。

焦っても
ろくなことにならないと
経験で知っている。

ただ黙って待つのではない。

選択し、行動しながら待つ。

それが大切だ。


政治系YouTubeにも
慣れてしまっていた。

惰性で見ていた。

無駄だ。

新人ライターを目指してから
見るものを選び直した。

政治動画ではなく
映画を見るようになった。

そして最近
よく眠る。

昼も夜も
よく眠る。

まるで冬眠のようだ。


新しく
何かが生まれる前のようだ。

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