― リモート面接
今朝は朝5時に目が覚めた。
今日は初めてのリモート面接の日だ。
在宅勤務を選んだ私の、いわば表舞台である。
まずは家の中をきれいにしなきゃ。
私は掃除を始めた。
朝から整理整頓も始まる。
やはり昭和生まれだからだろうか。
まるで面接官が我が家に訪れて面接をするような感覚だった。
それとも、環境を整えて自分の心の中までスッキリさせる作戦か。
整った部屋は、やはり心地よい。
いつものように朝食が運ばれてきた。
出来合いのミートソースにチーズをかけたトースト。
私には思いつかないトーストだった。
美味しかった。
そして私にとっての難関が待っていた。
Google Meet。
昭和人の、Google Meet 面接である。
AIに聞いてみた。
メールが届いているはずだという。
URLをクリックすると、面接画面が開いた。
……なんだ、簡単じゃん。
私はこの操作のために
5時間も準備していた。
アイコン一つ作るのに6時間費やした
あの苦い思い出がよみがえる。
少しホッとして、ふと気づいた。
カーテンが閉まったままだ。
今日も晴天。
少し肌寒い。
パソコンにこんなにも過緊張し、脱力し、
荒波に乗っている私。
時間が余り、安心した私は
そのままソファーで一時間も寝てしまった。
はっと気づくと、もう昼食の時間だった。
食事をしながら、私は大問題に気づいた。
愛犬ミイ。
面接中に吠えたらどうする?
ワンの一声で
環境負荷=不採用。
娘に頼んだ。
「面接の時間だけ、ミイと1時間散歩してくれない?」
「私一人じゃミイは無理」
即答である。
そうだ、ゲージがあった。
東京から和歌山まで、丸一日の移動。
ミイはゲージで耐え抜いた。
文句も言わず。
ミイはまるで私の気持ちがわかっているように
自分からゲージに入ってくれた。
くーん、くーん。
マンション一階のロビー。
娘がソファーに座り、
その横でゲージの中のミイが丸くなっていた。
ミイは、以前の私のようだった。
東京から和歌山に移住し、
文句も言わず、黙って我慢していた私。
定時10分前。
私はGoogle Meetに映る自分を見つめた。
私は Google Meet ならぬ、年金ニート。
それでも、ちゃんとログインしている。
面接は代表取締役みずからだった。
彼は動機を重視していた。
私はハキハキと答えた。
「股関節人工骨頭置換術と、踵プレート固定術のため
看護師を続けることができなくなりました。」
……しまった。
馬鹿正直すぎた。
もっと「御社に貢献したい」と言うべきだった。
彼は下を向いている。
やっぱり
61歳のおばあちゃんは直視できないのか。
避けられているのか?
厚化粧と思われているのでは?
もうパソコンの画面の向こうで
「不採用」をクリックしているのでは?
では私は、どこを見て話しているのか。
パソコン画面に貼り付けた メモ帳。
お互い様かもしれない。
どちらもカメラ目線ではないのだから。
私は思った。
ここまで来れただけで十分だ。
PCを買い
セットアップし
ネット環境を整え
面接までたどり着いた。
我ながらよく頑張った。
次の瞬間。
また波が来た。
私は再び
うたた寝の世界へ流されていった。
晩ごはんの良い香りで目が覚めた。
長崎ちゃんぽん。
チキンのクリーム煮。
娘の料理スキルがどんどん進化している。
炊飯器料理を覚えたらしい。
私はとても気分が良かった。
娘は大阪のB型作業所でリモートワークをしている。
一年に一回の面接が3月にある。
「大阪行こうか?」
「いいよ」
私は言った。
「その時、ホストクラブ行ってみる?
母娘で。」
「まずいないね。
お母さんが来る人は。」
「でも本当は行ってみたいんでしょう?」
娘はホストクラブのYouTubeを
こっそり見ているのを私は知っていた。
「アルコールはなしね」
「ママ、ホストクラブ嫌いでしょ?」
「正直、行ってみたいんでしょう?」
「うん」
娘の顔が輝いた。
すぐに梅田のホストクラブを検索している。
「東京と違って初回は無料らしいよ」
……え?
行ったことあるの?
娘が言った。
「友達に誘われて一階だけ行ったことある。
トイレがすごいの。
おしぼり持ってくるんだよ。」
そして続けた。
「だって不平等じゃない?
男性がキャバクラ行くのは普通で
女性がホストクラブ行くのは変なんて。」
まあ、正論といえば正論だ。
でも女性は弱い立場でもある。
実際、知り合いで
幼児がいるのにホスト通いをやめられなくなった
という相談も受けたことがある。
私は正直、ホストに偏見がある。
でも娘の
「楽しみが増えた」
この一言で
はい、参りました。
夜、私は般若心経の解説本を読んでいた。
この現実は
実は幻のようなもの。
空の教え。
もしこの足を
少しだけ浮かせてしまったらどうなるのだろう。
頭の中で般若心経が流れる。
そのまま眠りについた。
今日という幻は
ちゃんと私の中に残っていた。