終末期の薬は最低限での疼痛コントロール

疼痛に苦しませない看取りは可能だった――介護施設で実現した癌終末期看護の現場

終末期医療と聞くと、多くの人は「強い痛み」や「鎮痛剤や麻薬に頼る最期」を想像します。しかし、臨床の現場で看護に携わってきた私は、必ずしもそうとは限らない看取りを何度も経験してきました。適切な看護と環境が整えば、疼痛に過度に苦しむことなく、穏やかに旅立つことは十分に可能です。

患者様と家族の想いを最優先にする看取りを実践する中で、私はスウェーデンで終末期ケア研修を受けた看護師から学んだ視点を取り入れてきました。それは、身体が本来備えている自然な鎮痛機構を活かし、必要な医療を行いながらも、薬物療法だけに依存しない安楽の支援を目指す看護です。

終末期において、好きな食べ物や飲み物を楽しむことは単なる嗜好ではありません。美味しいと感じる体験は脳内でエンドルフィンの分泌を促し、自然な鎮痛作用をもたらします。さらに、家族の愛情や感謝を感じる時間は心理的安心感を高め、苦痛の軽減につながります。私たちはこうした身体と心の働きを尊重し、薬物療法と併用しながら、穏やかな看取りを支えてきました。

また、終末期に無理な栄養投与や過剰な水分補給を控えることは、かえって安楽につながる場合があります。過度の点滴は呼吸苦や浮腫を悪化させる可能性があり、本人の負担となることがあります。本人の「食べたい」「飲みたい」という自然な欲求を尊重することで、身体は無理なく生命の終わりへ向かい、苦痛の少ない経過をたどることがあります。

看護師の役割は単なる延命ではなく、「その人らしい最期の時間を守ること」にあります。好きな味を楽しみ、愛情に包まれて過ごす時間は、重要な緩和ケアの一部です。現場での経験を通して、私はその価値を強く実感してきました。

ある女性は乳癌の終末期で入居され、点滴による治療を希望されました。経口摂取が可能な間はご自宅で家族と過ごし、摂取が困難になってから施設での看取りが始まりました。傾眠が続き意識レベルが低下する中、最期が近いことをご主人に伝えると、二人の息子さんが泊まり込みで付き添われました。夜中、兄妹は幼い頃のように笑い合いながら過ごし、その様子をお母さんは静かに見つめていました。翌朝九時、ご家族と親族に見守られながら、安らかに永眠されました。

これは特別な奇跡ではなく、本人・家族・介護看護スタッフが協力して築いた時間でした。終末期だから必ず苦しむというわけではありません。ケアと環境次第で、安らかな時間を守ることは可能です。これから介護施設を選ぶ方には、医療体制だけでなく、「どのような看取りを大切にしている施設か」という視点も大切にしてほしいと思います。

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