自然抜去を繰り返す胃瘻チューブの管理
嚥下機能の低下などにより十分な経口摂取が困難となった場合、栄養管理の方法として胃瘻造設が検討されることがあります。
現在、多くの施設では**経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)**が行われており、内視鏡を使用して腹壁から胃内へチューブを留置します。通常は局所麻酔と鎮静下で実施され、身体への負担を抑えた手技です。
胃瘻からは液体栄養剤や半固形栄養剤を注入し、必要な栄養と水分を補給します。胃瘻チューブは一般的に3〜6か月ごとの交換が必要です。
胃瘻チューブの種類
胃瘻チューブにはいくつかの固定方式があります。
バルーン式
胃内先端のバルーン(水風船)を膨らませて固定する。交換が比較的容易。
バンパー式
胃内外の固定板(バンパー)で挟み込む構造。自己抜去が起こりにくい。
ボタン型・ロック式(製品により形状差あり)
内部で広がる構造を持ち、脱落予防を目的として使用されることがある。
チューブ選択は、患者の活動性・認知機能・体型・自己抜去リスクなどを総合的に判断して医師が決定します。
胃瘻チューブが抜去すると何が起こるか
胃瘻チューブが抜けてしまうと、瘻孔(チューブの通り道)は数時間以内に狭窄・閉鎖が始まることがあります。
特に造設後早期では閉鎖が速く、再挿入が困難となり、再造設が必要になる場合もあります。そのため、抜去は速やかな医療対応が必要なトラブルです。
抜去の主な原因
- 不快感による自己抜去(睡眠時・せん妄時)
- 認知症による理解低下
- バルーン破損・自然収縮による自然抜去
- 体動や腹圧上昇
繰り返す自然抜去の一例
高度急性期医療機関で治療を受けた後も、胃瘻チューブの自然抜去が継続していた症例
28歳女性患者は、胃瘻チューブの自然抜去を繰り返していました。固定力の高いタイプへ変更しても改善しませんでした。
観察すると、小柄な体格にもかかわらず腹囲は約90cmあり、腹部膨満が持続していました。医師と相談し排便コントロールを強化したところ、腸管内に便やガスが大量に貯留している状態が改善しました。
腹囲は60cm台まで減少し、以後チューブの自然抜去は認められていません。
腹部膨満による持続的な腹圧上昇が、チューブ脱落の一因であった可能性が考えられました。生活環境下での観察を通じて腹部膨満に着目し、排便コントロールを強化したところ改善が得られた。
経管栄養と排便
経管栄養剤は単なる水分ではなく、必要な栄養素を含む「食事」です。固形物ではないため排便が減ると考えられがちですが、実際には通常の食事と同様に便は形成されます。
腹部のみが膨隆している場合、便秘やガス貯留が存在する可能性があります。
胃瘻管理で重要な視点
胃瘻管理では、
- 挿入部皮膚の清潔保持
- 皮膚トラブルの早期発見
- チューブ固定状態の確認
に加え、腹部状態や排便状況の観察も重要です。
自然抜去は瘻孔閉鎖や再造設につながる重大なリスクであり、日常的な全身観察が予防につながります。
在宅看護で見た回復のかたち
胃瘻チューブの自然抜去はなくなり、状態は安定していった。
毎日3回訪問していた在宅ヘルパーによる排泄コントロールも整い、排便リズムは良好になった。
食事は少しずつ経口摂取が中心になり、夜間の睡眠も規則的になる。
すると、それまで頻繁に起きていたジストニア発作が消失した。
身体が落ち着くと、彼女はある願いを口にした。
「電動車椅子のメンテナンスに行きたい」
同行してみると、車椅子のメンテナンススタッフは彼女を大歓迎してくれた。
そこは、彼女にとって社会とつながる唯一の場所だった。
最初は私(看護師)が同行し、
その後はヘルパーが付き添って通うようになった。
そしてある日、彼女のお母様からこんな言葉が出た。
「箱根の温泉に行きたいんです」
私は上司に相談した。
そして上司と二人で、温泉旅行に同行することになった。
日常の介護のほとんどはお母様が担っている。
看護師二人は、いわば安心材料のような存在だった。
温泉に浸かったときの彼女の表情は、今でも忘れられない。
母親と娘、そして看護師。
三人で入った箱根の温泉。
あの湯気の向こうに見えた穏やかな笑顔は、
在宅看護という仕事の意味を、静かに教えてくれた。
